<全国ご当地エネルギーリポート>ノンフィクションライター(エネ経会議特派員)

第81回:注目の新電力を紹介!(みんな電力、生活クラブエナジー、中之条電力)

 いよいよ電力小売自由化が始まりましたね。でも「電力会社を選べる」と言ったって「値段以外の比較対象がない」「結局どうしたらいいかわからない」という方は多いのではないでしょうか?

そ こで今回は参考のため、ぼくが取材した新電力会社の取り組みを3つほど紹介します。2016年3月半ばの現時点で、その会社の特徴、家庭向けの小売をいつ から始めるのか、自然エネルギー電源の割合や調達先、といった概要をまとめました。いずれにしても、3社とも様々な課題がある中で前向きに社会を変えるた めの仕組みにチャレンジしているのが印象的です。自然エネルギーの電源が限られているため、まずは小規模な募集から始める予定になっています。

今回は概要のみということになりますが、詳しい話は今後のリポートでも伝えていきます。

生活クラブが秋田県にかほ市に風車を設置。建設1周年記念で地元の人々と生協組合員とが交流会を実施した様子(©生活クラブ生協

◆「顔の見える発電所」を応援する:みんな電力(東京都世田谷区)
 コメント・大石英司社長

◇「みんな電力」の特徴とは?

電 気を人々の身近な存在にしていこうというコンセプトで、小さな発電グッズの開発から、発電所の運営などをやってきました。その延長線上で、小売事業にも参 加しています。特徴としては、「顔の見える発電所」として、みんな電力が電力を買い取る発電所の情報を公開し、需要家が応援したい発電所を選べるように なっています。そして選んだ所には、電気代の一部が還元される仕組みです。このように、電気を通じて人と人とをつなぐ役割をしていきたいと思っています。


みんな電力のオフィスがある「世田谷ものづくり学校」には、電力供給も行っている。みんな電力の大石英司社長

◇家庭向けの小売について

受 付は2月末から開始しました。4月から30世帯を対象に実験的に小売を開始しています。その状況を受けて、6月以降に段階的に枠を拡大していく予定です。 ご興味のある方は、サイトから申し込みができるようになっていますが先着順で、希望者が多いため、契約開始まで時間がかかる可能性があります。

自然エネルギー電源について

関 東の市民発電所33ヶ所と契約し、また三重県にあるバイオマス発電所からも調達予定です。自社の電源開発事業で手がけた発電所(太陽光やバイオマスなど) からの買取も計画していて、合わせて3万世帯程度の電源供給ができればと考えています。電源構成は3月中には開示する予定で、当初は自然エネルギー70% から始めます。その割合は、各発電所の発電状況やどれくらいの家庭が契約するかということで変動します。

※みんな電力のサイトはこちら

◆エネルギーの共同購入を/生活クラブエナジー(東京都新宿区)
 コメント・半澤彰浩社長

◇生活クラブエナジーの特徴は?

生 活クラブ生協が母体となって「生活クラブエナジー」という新電力を立ち上げました。よく「食べ物をあつかっている生協がなぜエネルギーをやるんですか?」 と質問されるのですが、エネルギーは、食と同様に生きるのに欠かせないものです。食の共同購入と同じように、エネルギーも自分たちで選んで共同購入できな いか、という思いは長い間、私たちの間で議論されてきました。

私たちは電力自由化が見えてきたことで、唐突にエネルギー事業を始めたわけではないのです。風車の建設などを含めて長年、組合員の中で議論をしてきた積み重ねがある。そこで培ってきた実績や信頼関係を元に、取り組みを進めていきたいと思っています。


生活クラブエナジーの半澤彰浩社長。生活クラブ風車を建設した秋田県にかほ市の人々と共同開発した日本酒について語る


◇家庭向けの小売について

生 活クラブの組合員向けに、6月から供給を始め、段階的に広げていきます。6月から開始する分は首都圏の4つの生協(東京、神奈川、埼玉、千葉)が対象で、 1500世帯の枠で募集したところ、東京だけで約1500世帯の応募があるなど大きな反響があり、3月現在ですでにいっぱいになっています。まずは抽選と いうことになりますが、その後10月からは全国の生活クラブの組合員を対象に、枠を1万3千世帯まで広げます。3年後には4万世帯に供給できる体制になる ことを目指して動いています。すでにクリーンな電力を購入するために生活クラブの会員になるという人も出てきています。

価格は、東京電力 の従来のシステムと同じで、生活クラブを選んでも高くならないようにしています(※ただしオール電化住宅については高くなります)。小売業としては採算的 にかなり厳しい面もあるのですが、自前の発電所を増やすことでトータルに回していけるように工夫をしていきたいと考えています。また、新電力の出している プランの多くには省エネしている家庭にメリットがない、という問題が指摘されていますが、それについても今後検討していきたいと思っています。

自然エネルギー電源について

今 のところは幅があるのですが、自然エネルギーの割合は30%から60%ということにしています。今、自社で持っていたり契約している発電所が限られている ということで、首都圏だけが対象なら60%くらいになるのですが、全国に広げた時に他からも調達しなければ足りなくなるのです。もちろん、このような情報 はきっちりと公開して、発電所の数も増やしていく予定です。

◆日本初の「自治体新電力」:中之条電力(群馬県中之条町  
 コメント・山本政雄代表理事

◇中之条電力の特徴は?

中 之条町が、電力の地産地消を通じて地域活性化に寄与することを目的として、民間事業者と共同して出資し、新電力会社「一般財団法人中之条電力」を設立しま した(2013年)。自治体としては全国で初めての新電力事業者となります。設立のきっかけとしては、東日本大震災原発事故をきっかけに、前町長がエネ ルギーの地産地消をめざしたことにあります。将来的には、中之条町の世帯を中心に、発電から小売までを担い、災害にも強い街づくりを目指していきたいと考 えています。

※中之条電力は、電力自由化を見据えて2015年11月に「株式会社中之条パワー」を設立。同年12月に電力小売事業を引き継ぎました。

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建設中の小水力発電の導水管と、中之条電力の山本政雄代表理事

◇家庭向けの小売について

高 圧の小売事業はすでに2014年から始めていて、中之条町の公共施設に電力を供給しています。これによって町の予算が年間でおよそ1000万円削減された という効果も出ています。家庭向け(低圧)の小売は、2016年7月からまず中之条町内の家庭、約1000軒を対象に実施する予定です。

すでに町民の方から「第一号はうちにして欲しい」という問い合わせもいただいています。料金も現在の東京電力の価格より高くならないように設定する予定です。

自然エネルギー電源について

中 之条町には、町所有のメガソーラー(大規模太陽光発電所)が2機あり、合わせて約4000キロワットの出力があります。ただ、太陽光発電は朝と昼しか発電 しません。家庭では電気を夜間に使うことが多く、その分を電力市場から調達しなければならなくなります。中之条電力にとっては割高になってしまうので、事 業としては課題が残っています。そこで、小水力発電所の建設を進めるなど自社の太陽光以外の電源開発も進め、多様化を図っているところです。