<全国ご当地エネルギーリポート>ノンフィクションライター(エネ経会議特派員)その3

第85回:注目の新電力会社を紹介②(ループ、みやまスマートエネルギー)

  電力自由化がはじまってすでに2ヶ月。現在までのところ従来の大手電力会社から切り替えた家庭は全体の2%程度と割合は少 ないのですが、切り替えを具体的に考え始めた方も多いのではないでしょうか?今回は、一般家庭が契約することができる注目の新電力会社紹介企画の第二弾を お送りします。


福岡県みやま市のメガソーラー(提供:みやまスマートエネルギー)

今 回紹介する「Looop(ループ)」は、基本料金0円という省エネする家庭にもメリットがあるプランを打ち出しています。また「みやまスマートエネル ギー」は、地域の課題解決に電力小売を結びつけようという取り組みを進めています。いずれも、とても個性的な会社なので、ぜひ注目してほしいところです。

◆基本料金ゼロ!大震災を機に立ち上がったベンチャー企業:Looop(東京都文京区)

◇特徴

「株式会社Looop(ループ)」は、個人でも太陽光発電所を持ち、作ることができる「MY発電所キット」を販売して人気となった会社です。

会 社を設立したきっかけは、3・11の東日本大震災が起きたとき、当時つきあいのあった中国企業からソーラーパネルをもらい受けたことでした。中村創一郎社 長ら創業メンバーは、そのパネルを電力供給の止まった宮城県石巻市気仙沼市にボランティアで設置、自然エネルギーの重要性を感じたことから、2011年 4月に会社を立ち上げます。

設立から5年がたった現在は、160人以上の社員を抱えるまでに成長しています。自社が開発する太陽光発電所 としては、14カ所に合計出力10メガワット以上を所有しています。2015年末からは企業を対象とした高圧小売事業を開始、およそ1000件ほどの企業 と契約しました。


Looopの「MY発電所キット」(提供:Looop)

◇家庭向けの小売について

2016年4月からは、家庭向けをふくめた低圧電力の供給を東京電力関西電力中部電力のエリアを対象に始めています。

小 売事業の特徴としては、基本料金が0円で、電気代は1キロワット時につき一般家庭で26円(関西圏は25円)、商店、事務所では27円(関西圏は26円) と定額であることです。各社が複雑な料金設定や複数のプランを打ち出し、消費者にわかりにくい状況になっている中、非常にシンプルな設定といえます。

契 約期間のしばりもありません。基本料金がかからないので、電力使用量の多い家庭だけでなく、省エネした家庭にもメリットがある仕組みです。高圧契約がある 程度安定したビジネスになっていることや、宣伝広告費などにコストをほとんどかけていないことから、このような思い切ったプランが打ち出せました。

2016年の3月11日に受付を開始したところ、予想を越えた反響があり、2ヶ月弱でおよそ1万世帯が申し込みました。Looopは今後、10万人をめざして契約者を増やすことを目標にしています。


Looopの企画開発部長、小嶋祐輔さん

自然エネルギー電源について

こ れまでの発電設備は太陽光が中心ですが、風力発電所地熱発電所の開発も手がけるなど、電源の多様化を進めています。電源構成は、FIT電気が20%、 FITではない水力発電所との直接契約が6%で、合わせると自然エネルギーの割合は26%を越えています(2016年5月現在の計画値)。

新電力会社の中には電力の需給管理を大手に任せるところも多いのですが、これまでの経験から自社で手がけることができるというのも強みになっています。

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◆地域の課題解消をめざす自治体新電力会社:みやまスマートエネルギー(福岡県みやま市


みやま市役所の前ではためく「エネルギー地産地消都市」ののぼり

◇特徴

 福岡県みやま市にある「みやまスマートエネルギー」は、全国の自治体新電力会社の中で最も早く家庭向けの小売事業を始めた自治体が出資している新電力会社です。

み やま市は、2005年に3つの町が合併してできた人口4万人ほどの自治体で、2013年に市と市内の企業が出資して出力5メガワットの太陽光発電設備を設 置しています。また経産省が補助を募集した家庭向けエネルギー管理システム(HEMS/ヘムス ※)の実証事業を2014年から実施するなど、エネルギー 政策に積極的に取り組んできました。

HEMSとは、端末を通じて自分がどれくらい電力を使っているか細かく確認できるシステムです。みやま市がHEMS事業を実施した背景には、急激に進む高齢化など、増加する地域の課題に対して予算や人員が追いつかないという実情がありました。

みやま市は、HEMSの情報を利用して、一人暮らしの高齢者の見守りや健康管理などを行う新しいサービスを実施し、利用者には好評でした。発電事業やHEMSの実績を踏まえて、みやま市が55%を出資して、みやまスマートエネルギーを設立しました。

実 証事業を終えたHEMSの活用も、このみやまスマートエネルギーが引き継ぐことになりました。みやま市は、単に電気を販売するだけでなく、エネルギーとの つながりを通して、地域振興や高齢者対応、雇用創出、そして子育て世帯の定着率を高めるといった地域のニーズに対応できる仕組みにつなげようとしていま す。

※ HEMS(ヘムス)は、ホームエネルギーマネジメントシステムの略。家庭でエネルギーを効率的に 使うための管理システム。端末のモニター画面から家庭の電化製品の使用状況などが把握できる。みやま市では、サポートセンターに情報を転送することにより 高齢者の健康状態などを把握、必要があれば家族に連絡をするなどしてきた。


みやまスマートエネルギーの経営企画部長、白岩紀人さん

◇家庭向けの小売について

2016 年4月からは、九州電力管内の一般家庭向けの電力販売を始めています。2016年5月現在では約300世帯の申し込みを受けつけています。当初は対象をみ やま市に限定しようという案もありましたが、みやまにゆかりのある人が他の地域で電気を買いたいとなったときに供給したいとの考えから、九州全域で購入で きるようにしています。

価格は九州電力より平均で2%ほど値引きしていて、水道料金とセットにすれば手続きが簡素化され、さらに割安になります。自然エネルギーの割合(FIT)は、年平均でおよそ40% 程度です(2016年5月現在)。


エネルギーが身近になるHEMSの端末
 
◇取り組みと今後の展開

2015年末から市の公共施設や病院、JAなどに高圧の電力を供給しスタートした電力会社ですが、補助事業が終了したHEMSの事業も、みやま市から引き継いで実施することで、電力販売に留まらない活動へ広がりをみせています。

例 えば、みやまスマートエネルギーと電力契約をした世帯にはHEMSの機器が斡旋され、画面から地域の商店街の商品を注文、宅配サービスを受けることができ ます。同じようなものを買うのなら、アマゾンや楽天ではなく、地域の商店街を利用して地域振興につなげようという狙いから実現しました。HEMSを通じ て、災害情報の提供や日常の御用聞きサービスも行っています。こうしたサービスは、みやま市内に住む人だけが対象となります。

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